キムリアはなぜ現役世代に保険適用されないのか?理由を調べてみた

最近、日本では健康保険に関する医療費の不公平さが問題視されている。
特に、急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬である「キムリア」には年齢制限があり、現役世代が保険適用の対象外となることに対し、不満の声も上がっている。
通常、医薬品会社は利益のために現役世代にも使用できるよう厚生労働省に申請するはずであり、他のがん治療薬では現役世代も保険適用となっていることを考えると、キムリアが適用外であることには違和感を覚える。
なぜこのような状況になったのか。急性リンパ性白血病を発症した場合、現役世代は自費で治療を受けるしかないのか。

この疑問について、Deep Research に聞いてみた。

結論としては、25歳を超えた成人に対する有効性データが不足しているため、保険適用が認められていないという理由に過ぎず、意図的に現役世代を除外しているわけではない、ということだった。

では、もし興味があれば詳しく見ていこう。


1. 厚生労働省の判断基準や審査の経緯

適用年齢の基準: キムリア(チサゲンレクルユーセル)の適用年齢は、臨床試験データに基づいて決定されました。急性リンパ芽球性白血病(ALL)については小児およびAYA世代(思春期・若年成人)を対象とした試験が行われ、投与時年齢25歳以下の患者が対象とされています​kango-roo.com。厚生労働省もこのエビデンスを踏まえ、国内承認時の効能効果を「25歳以下のCD19陽性の再発・難治性B細胞性ALL」と定めました​mhlw.go.jp。これは国際的な標準に沿ったもので、25歳という年齢制限は日本独自の恣意的判断ではなく、治験で有効性・安全性が確認された範囲に基づくものです​kango-roo.comnovartis.com。逆に言えば、25歳を超える成人のALL患者に対しては有効性データが不足していたため、承認適応から外された経緯があります。

審査プロセス: キムリアは2019年3月26日に再生医療等製品として製造販売承認を取得し​mhlw.go.jp、同年5月15日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で保険収載が了承されました​jp.reuters.com。中医協の審議では薬価・対象患者数・財政影響などが検討され、薬価は3349万3407円(1回あたり)と史上最高額に設定されています​jp.reuters.com。もっとも、国内での対象患者数はピーク時でも年間216人程度と見込まれ、想定市場規模は約72億円と資料に示されています​jp.reuters.com。厚労省は効果が劇的な少数の難治患者のための治療法であることを重視し、「原則保険適用」とする方針を取りました。その上で、高額薬剤による医療財政への影響にも配慮し、費用対効果評価の実施を決定しています​jp.reuters.com。実際、2021年に費用対効果評価が行われ、キムリアの薬価は約4.3%引き下げられて約3264万円となりました​gemmed.ghc-j.com。このように厚労省は、エビデンスに基づく年齢制限を設定した上で、価格や財政面の検証を経て保険適用を決定しています。

公式発表・議論: 厚労省の保険収載時の通知や最適使用推進ガイドラインにも、年齢要件が明記されています。たとえば収載時の資料では「25歳以下(投与時)の患者」に対する投与量規定が示されており​mhlw.go.jp、診療報酬明細書の摘要欄にも年齢条件を記載するよう求められています。国会や審議会で年齢制限そのものが議論された記録は多くありませんが、中医協の場ではキムリアのような超高額薬剤について「保険給付範囲からの除外や償還率の変更を検討すべき」といった意見も出ています​jp.reuters.com

(高額薬剤の必要性と費用負担のバランスに関する意見)。しかし現時点では、ALLにおける年齢条件は医学的妥当性に基づくものとして公式に受け入れられており、その制限に対する緩和策等は発表されていません。

2. 製薬会社(ノバルティス)の対応や方針

現役世代への適用に対するスタンス: ノバルティスはキムリアの開発・申請において、国際的な臨床試験結果に沿った適応範囲を設定しました。日本での承認申請時の効能効果も「小児を含む25歳以下のCD19陽性再発・難治性B細胞性ALLおよび成人のCD19陽性再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」とされており、当初からALLの適応年齢は25歳以下に限定されています​mixonline.jp。これは製薬企業として恣意的に年齢を区切ったというより、臨床試験の対象集団(小児・AYA世代)に合わせたものです。ノバルティスは現役世代(例えば26歳以上の成人ALL患者)への適用拡大について、公には具体的な方針を示していません。現時点で25歳を超える成人ALL患者に対する追加承認申請の動きは確認されておらず、同社も「さらなるエビデンスが得られない限り適応拡大は困難」との立場とみられます(公式声明はありませんが、データに基づく適応を守っている状況です)。

厚労省への申請内容と企業の意向: 上記のとおり、ノバルティスは当初から日本でも国際的な標準適応で申請を行いました​mixonline.jp。その狙いは、まず効果が証明された患者層に速やかに治療を届けることにあります。25歳以下のALL患者や難治性DLBCL患者は他に有効な治療法が乏しく、企業としても迅速な承認・保険収載を目指して厚労省と協議を進めました。インタビューなどによれば、ノバルティスは超高額薬剤の提供にあたり社会的受容性にも関心を寄せており、「厚労省や医療従事者、患者団体、政策立案者などステークホルダー全員で高額薬剤との付き合い方を議論すべき時だ」と発言しています​diamond.jp。この発言からは、ノバルティスが現役世代を含む患者へのアクセス改善と、国の医療財政との両立に前向きな姿勢を持っていることが読み取れます。ただし、具体的に年齢制限撤廃を求める動きがあったわけではなく、まずは承認された適応内で適正使用を図る考えと推察されます。

追加の申請や交渉の予定: 現時点でノバルティスが公表している範囲では、ALL適応の年齢拡大に関する追加申請計画はありません。同社はむしろ他の適応症の追加に注力しており、2022年8月には濾胞性リンパ腫(FL)に対する効能追加承認を取得しています​novartis.com。このように新たなエビデンスが揃った領域では適応拡大の申請を行っていますが、成人ALLに関しては有効性データの不足もあり、追加治験や申請の動きは見られません。一方で、厚労省との交渉面では費用対効果評価への対応が挙げられます。ノバルティスは費用対効果評価の結果を受け入れ、キムリアの薬価を当初の約3349万円から3264万7761円に引き下げることに合意しました​gemmed.ghc-j.com。また、同時期に導入された競合CAR-T製品(ギリアド社のイエスカルタ)も同額に設定されており​gemmed.ghc-j.com、価格面で公的保険に配慮する姿勢がうかがえます。総じて、**ノバルティスは現行の適応範囲内で患者へのアクセス向上と価格調整に取り組みつつ、現役世代への適応拡大については慎重(エビデンス待ち)**であると言えます。

3. 他国との比較(日本のみの制限なのか)

各国の適応範囲: キムリアの適応年齢制限は日本特有のものではなく、米国FDAや欧州EMAの承認内容も日本と同様です。米国FDAは2017年の承認時に「25歳までの小児・若年成人の難治性B細胞性ALL」を適応と定めており​fda.gov、欧州でも「25歳以下の小児・若年成人のALLおよび成人の難治性DLBCL」が承認適応となっています​novartis.com。例えば欧州医薬品庁(EMA)の承認要約でも**「25歳以下の小児および若年成人のB細胞性ALL」が明記**されており​novartis.com、これは日本の承認内容と一致します。また英国のNICE(国立医療技術評価機構)も2018年にキムリアを推奨する際、「25歳以下の小児・若年成人のALL患者」を対象としています​onclive.com。このように、主要国はいずれもキムリアのALL適応に25歳前後の年齢上限を設けており、日本だけが特別に制限しているわけではありません。

国際的な基準との整合性: 日本の年齢制限は国際的な臨床試験(ELIANA試験など)の対象集団に基づくもので、他国と歩調を合わせた判断です。実際、ノバルティスのグローバル展開資料によれば、キムリアは「25歳までの小児・若年成人ALL」「成人の難治性DLBCL」「成人の難治性FL」において世界30か国以上で承認されている」とされています​novartis.com。したがって、年齢制限に関して日本の基準は特殊ではなく、各国の規制当局が一致して設定した医学的妥当性のあるラインといえます。背景には、小児~AYA世代のALLと高齢成人のALLとで疾患の性質や治療反応が異なる可能性があること、また高齢成人ではCAR-T療法のリスク・ベネフィット比が明確でないことがあります。他国でも現時点で成人(26歳以上)のALL患者に対するキムリアの承認例はなく、治験段階に留まっています。

他国での保険適用状況: 保険制度は国によって異なりますが、概ね承認された適応範囲内で公的保険や民間保険による支払いがなされています。米国ではFDA承認後、民間医療保険や公的保険(メディケアなど)が25歳以下のALLおよび適応内のDLBCL患者に対するキムリアをカバーしています(保険者により事前審査はありますが、適応内であれば支払い対象)。欧州各国でもキムリアは高額医療として国民保険の給付リストに載せられ、例えばイギリスではNHSが条件を満たす患者に投与する場合の費用を負担しています​onclive.com。韓国においても状況は似ており、韓国の公的医療保険は25歳未満のALL患者と成人DLBCL患者を対象にキムリアを保険適用しています​german.visitkorea.or.kr。韓国では保険適用により患者自己負担は500万~1000万ウォン(約50万~100万円程度)に軽減され、6か月以上在住の外国人も保険加入していれば適用を受けられると報じられています​german.visitkorea.or.krgerman.visitkorea.or.kr。以上より、日本のみが特別に年齢で制限している訳ではなく、キムリアに関しては年齢要件も含め国際標準の適応を日本も踏襲している状況です。

4. 現役世代が治療を受ける場合の自費治療費用や選択肢

キムリア自費治療の費用: 現在、日本で25歳を超える現役世代のALL患者がキムリア治療を希望する場合、保険適用外のため全額自己負担による治療(自由診療)となります。その費用は非常に高額で、薬剤費だけで約3349万円(約3350万円)と設定されています​mhlw.go.jp。費用対効果評価後の現在の薬価は約3265万円ですが​gemmed.ghc-j.com、いずれにせよ3000万円超の費用が一度の治療で発生します。これは薬剤そのものの価格であり、実際にはこれに加えて細胞採取の手技費用、リンフォディプリーション(前処置化学療法)や入院管理費、集中治療管理費などが別途かかります。保険診療であれば高額療養費制度により自己負担額は数万円~数十万円程度に抑えられますが​product.gan-kisho.novartis.co.jp、自由診療ではこの制度は適用されません。したがって自己負担でキムリアを受ける場合、数千万円規模の費用を全て患者側で用意する必要**があります。日本造血・免疫細胞療法学会も「CAR-T細胞療法は(通常)保険診療として行われる」と案内しており​jstct.or.jp、適応外で自費となるケースは極めて例外的です。実際に自費でキムリア治療を受ける場合、施行可能な認定医療機関と十分な資金準備が必要であり、多くの患者にとって現実的な選択肢とはなりにくいのが実情です。

自費治療を受けるまでのプロセス: 現役世代の患者が自費でCAR-T療法を受けるには、まずキムリア実施認定を受けている医療施設に相談する必要があります。担当医は患者の病状がCAR-T療法に適しているか(他の治療法が無効であること、臓器機能や全身状態が許容範囲であること等)を判断します。その上で病院の倫理委員会などの承認を経て、患者・家族と費用負担等について十分な合意形成が行われます。治療費が数千万円規模に及ぶため、多くの病院では前払い金の預託や支払い保証の手続きが求められるでしょう。実務的な流れ自体は保険診療のCAR-Tと同様で、(1) T細胞採取(アフェレーシス)、(2) 製薬企業(ノバルティス)によるキムリア製造(患者自身のT細胞を遺伝子改変して輸送)、(3) 数週間後に患者に戻ってきた製剤を入院下で点滴投与、という段階を踏みます​jstct.or.jp。投与後はサイトカイン放出症候群等の重篤副作用に備え、集中治療体制のある病棟で経過観察します。こうした一連のプロセスにかかる医療費(検査・入院基本料・ICU管理料など)も全て自己負担となります。患者側は高額療養費制度の恩恵を受けられず、治療終了後に医療機関から数千万規模の請求書が発行されることになります。従って、自費で治療を受ける場合は事前に十分な資金計画を立てること、場合によっては民間の医療ローン利用やクラウドファンディングによる支援を検討する必要があります。なお、キムリアは国内承認済み製品であるため海外からの個人輸入のような手段は想定されず、国内の認定病院で正式に自由診療として実施する以外に入手・施行は困難です。

現役世代における代替治療法と費用比較: 保険適用から外れる現役世代のALL患者には、キムリア以外にもいくつかの治療選択肢があります。代表的なのは化学療法と造血幹細胞移植の組み合わせで、再発・難治ALLに対しては次世代の薬剤であるブリナツモマブ(商品名ビーリンサイト)やイノツズマブ オゾガマイシン(商品名ベスポンサ)といった新規薬が用いられます。ブリナツモマブはT細胞を白血病細胞に引き寄せて攻撃させる二重特異性抗体製剤で、寛解導入率が高く、一部患者では同種造血幹細胞移植までつなぐことができます​mhlw.go.jp。その費用は薬価ベースで1サイクルあたり750~800万円と見積もられており(最大9サイクルまで投与可能)​answers.ten-navi.com、薬剤費自体は高額ですが公的医療保険でカバーされるため患者の自己負担は大幅に軽減されます。仮にブリナツモマブを複数サイクル施行し造血幹細胞移植を行った場合、医療保険適用下では高額療養費制度により患者の実質負担額は数十万円程度で済むケースが多くなります(収入区分にもよりますが、自己負担上限額が設定されるためです​product.gan-kisho.novartis.co.jp)。一方、イノツズマブ オゾガマイシンもB細胞性ALLに有効な抗体薬物複合体で、こちらも保険診療で利用可能です。加えて、**同種造血幹細胞移植(骨髄移植)**は長年標準治療として行われており、寛解が得られれば根治のチャンスがあります。移植は入院期間も長く医療費総額は高額になりますが、公的補助(難病指定や移植医療支援制度など)が受けられる場合もあり、患者負担は入院月数×高額療養費上限程度に抑えられます。

以上を費用面で比較すると、キムリア自体の総額(約3300万円)は代替治療法に比べ突出して高額ですが、保険適用の有無で患者負担に大きな差が生じます。ブリナツモマブ+移植などの代替ルートでは公的保険により経済的ハードルは下がる一方、治療成績(長期生存率)はキムリアほど高くない場合もあります。キムリアはALLに対し約80%以上の初回奏効率を示し長期生存率も50%前後と報告されています​cancer.qlife.jpが、自費でその恩恵にあずかれる人は限られます。経済的に可能な患者は自己負担でキムリアを受ける選択肢も理論上ありますが、現実には多くの患者が保険診療内で利用可能な代替療法(新薬+移植など)**を検討せざるを得ない状況です。その際の費用負担はキムリア自費に比べれば格段に小さく抑えられるため、経済面と治療効果を天秤にかけながら方針決定が行われています​mhlw.go.jpanswers.ten-navi.com。患者や主治医は最新の治療ガイドラインや臨床試験情報も参考に、最善の治療戦略を模索することになります。

まとめ: キムリアの日本での年齢制限は厚労省が国際標準に沿って設定したもので、現役世代のALL患者には適用されません。ノバルティスは現行適応内で治療普及と価格調整に努めていますが、年齢拡大の具体策は示していません。他国でも同様の年齢制限が敷かれており、日本だけが特殊な状況ではありません。現役世代の患者がキムリア治療を望む場合、数千万円規模の自費負担が必要となり、現実的には保険診療内で利用できる他の治療(新薬や造血幹細胞移植)を選択するケースが多いのが実状です​mhlw.go.jpanswers.ten-navi.com。各種公式情報や専門機関の資料を総合すると、以上のような現状と課題が浮かび上がります。

参考資料: 厚生労働省通知・中医協資料、ノバルティス社ファクトブック、医薬産業専門紙(ミクスOnline、AnswersNews)記事、看護専門サイト、造血細胞療法学会情報など​mhlw.go.jp kango-roo.commixonline.jp novartis.com jp.reuters.com jp.reuters.com german.visitkorea.or.kr mhlw.go.jp answers.ten-navi.com。これらにより、キムリアの年齢制限とその背景、自費診療時の課題について最新の知見をまとめました。

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