春の風は優しくない

風がそっと頬を撫でるたび、春の訪れを感じる。けれど、その優雅な風に乗ってやってくるのは、決して甘い花の香りではない。花粉だ。

目を閉じれば、心地よい風に包まれ、大自然と一体になったような気がする。だが次の瞬間、くしゃみが炸裂し、鼻水が滝のようにあふれ出す。この風、ただの風ではない。遥か遠くの杉林から、あの黄色い悪魔を大量に引き連れてきたらしい。

鼻をすすれば、春の静寂に響くのは自分の鼻音。ティッシュは手放せない相棒となり、ポケットにはいつでも数枚の予備が忍ばせてある。人はなぜ四季を愛でるのか——そんなことを考えながら、花粉症の薬を流し込む。

春の風は、さまざまなものを運んでくる。幸福か、希望か。しかし今のところ、運ばれてきたのは終わらぬ鼻水と目のかゆみだけだ。

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小説みたいで素敵…!